たやは

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やわらかな光


中学校は辛かった。もともとコミ障なのは分かっていたが、友達もできず朝から誰とも話さない日なんてざらだった。だんだん僕の存在はクラスから消え、挨拶さえ返してもらうことはなくなっていた。僕は本当に存在しているのか、自分自身でも分からなくなってしまった。

学校に行かな日が増え、自分の部屋に引きこもり始めた頃、突然僕の部屋を叩く音がした。誰だろう。
でも、僕にとっては誰で関係ない。僕の存在を消すなら消せばいい。僕は本当に消えてもいいのだから。

コンコン。

「こんばんわ。私は北海道で牧場を経営している松田と言います。突然すみません。私の甥はあなたのクラスの松田啓人です。啓人からあなたのことを聞いて来ました。また来ますね。」

松田啓人。誰だっけ。でも何でその人の叔父さんが来たのかな。でも僕に関係ないこと。

コンコン。

「こんばんわ。松田です。僕の牧場では牛を50匹と羊30匹を飼っています。みんな手がかかりますが、どの子も可愛いですよ。でも、その子たちを私は出荷して生計を立ててます。またお話ししましょう。」


コンコン

「こんばんわ。松田です。寒くなってきましたね。北海道の冬はもっともっと寒いですよ。牧場で牛たちが私を待っているので
帰ることにしました。」
「あなたも行きませんか。空港で待っています。持ち物なんていりませんよ。全部手放して来て下さい。大丈夫。待っています。私も牛も羊もあなたを待っています。」

僕を待っている人がいる。
僕を必要としてくれる人が動物がいる。
僕を認めてくれるならここから出たい。
新たな自分になるために全てを手放しても構わない。

やわらかな光を浴びて、飛行機に乗る僕は生きるための一歩を踏み出す。

10/16/2024, 1:18:13 PM