Open App

澄んだ瞳だった

穢れを知らぬ、まさに無垢な子供の瞳だった

何も知らない、無知な者とも言えようか

そこには嘘も虚構もなく、ただただそれが真実であると示している

俺が家の中に押し入った時には、もう全てが終わっていた

部屋の中には、呆然と空を見つめている子どもが一人

周りには、飛び散った血飛沫と転がる人…だったもの

うつ伏せになってることによって見える背中は、刺し傷だらけだった

凶器であろう包丁だけが、薄暗い部屋の中でほのかに輝いている


困惑


取り敢えず中に入らないことには始まらないと思い、一歩足を踏み出せば子供はゆっくりとこちらに顔を向けた

「お兄さんたち、だあれ?」

この状況にそぐわない明るい声で質問される

近づいてみれば子供の手も服も血で赤黒くなっており、正直この状態で質問をするこの子に少し恐怖を抱いた

何で、こんなにも平然としていられる?

十中八九この子がやった。それで間違いないのだ

普通、少しぐらいパニックになったりするだろう

なのに、目の前のこの子はにこやかに自分の名前やら好きな食べ物やらを喋っている

しかも、倒れているのはこの子の母親。この子が自分でそう言っていた

あまりに理解ができなくて、一緒に来ていた仲間が子供に聞いた


どうして、こんなことしたの?…と


それに少しの間を置いて、目を細めながら嬉しそうに子供は話し始めた


「あのね、お母さんがね、たたいたりけったりするのは、ぼくを愛しているからって!これは愛のあるこうい…?なんだって!」


「だからぼく、おんなじようにしたの!」


「お母さんのこと、だいすきだから!」


スッと、背筋が凍るような感覚を覚えた

何を言っているんだ、この子供は。…いや、子供だからこそ、か?

子供は花咲くような満面の笑みでこちらを見ている

自分のやったことが、わかってないのかもしれない

……このことについて深く追求するのは、もうやめにしよう

どうせこの後のことは担当の者に任されるはず

その者達が到着するまで、俺達が少し待てばいいだけ

何がそんなに嬉しいのか、子供は最後までニコニコと楽しそうに、嬉しそうに笑っているばかりであった





その後、やって来た者に子供を引き渡して、俺は帰った

子供のそれからがどうなったかなんて俺には知る由もなかった

ただ、あの時の子供の瞳が、どうして忘れられなかった

澄んだ瞳。恐ろしい瞳

それを吹き飛ばすように、俺は吸っていた煙草の煙を深く吐き出した








7/30/2024, 3:23:52 PM