与太ガラス

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「じゃあ、明日の放課後、ここで待ち合わせね」

 またあの日の夢を見た。最近よく見る夢だ。いや、このフレーズだけを思い出している。これは現実にあったことなのか。それさえもわからなくなっていた。

 あの日の明日。何をしたんだっけ。その友達とは今も友達なんだっけ。

 こんな記憶のために、子供の頃に住んでいた土地を訪れるのは、おかしいことだろうか。それでもここに来てしまったのは、私が今確かめなければいけないと思ったからなんだろう。

 夢で聞く声からして、おそらく中学生。であれば行くべきは中学校。私は通っていた中学校から家までの道のりを歩くことにした。

 毎日歩いていた景色なのに、すべての建物の背が少しずつ低いように感じられる。自分の目線の高さが上がっているのだ。少しの目線でこんなにも世界が変わるのか。身長が2メートルの人とは、生きている世界が違うんだろうな。

 昔の生家にたどり着く直前、四つ角のところで記憶が舞い戻る。ここだ。あの日待ち合わせをしたのはこの交差点だ。

 相手は友達の女の子。思い出してみれば、なんで今まで忘れていたんだろうという気持ちになる。そう、私は毎日のようにここであの子と待ち合わせをしていた。

 たった一度の強い思い出ではなくて。習慣的な当たり前の約束だった。

 じゃあ、あの夢は、私に何を知らせていたんだろう。人の記憶が脆弱で、大切なことを簡単に忘れるということ?日々の忙しさに追いかけられると、過去が消えてしまうということ?

 あの子と毎日遊んでいたのは、中学2年生ぐらいのとき。行き先も決めず、とりあえず商店街まで歩いていって、本屋さんとかお菓子屋さんとか喫茶店とか。

 ああそっか。「覚えてる」っていうことか。

 私はこの記憶を覚えていた。思い出せるんだ。どんなに日々に押しつぶされそうになっても、覚えてるんだ。

 なんでもないあの日々を、大切だったあの日々を。あの夢は、大丈夫だって知らせてたんだ。何も忘れてない。あなたの人生はあの日からずっと続いていると。

10/13/2024, 1:14:07 AM