目を瞑り、微笑む。
高貴な血筋と家格を有する、氏族の嫡流にして本家嫡男として振る舞う。
この時ほど、自我が不要な時は無い。
礼儀正しく、愛想良く、上品で紳士的な所作を……念の為、意識する。
優しく微笑んでいながら、鋭く冷たい目をする。
お偉い方々に丁寧な挨拶とちょっとした雑談をする。
○家の嫡流には妙齢な娘が居る、●家と□家が婚姻した、
▽家が没落した、■家は〜派に移った、などなど様々な情報が行き交う。
パーティは、政の戦場。
ここから、国や経済が動く。
我が一族の努めは、至って明確だ。
ただ、勢力のバランスを保てるよう、手を回し、引き際を見極めるのみ。
今の世は、動きが激しい。
ならば、その動きに寄せ、立ち回るのみだ。
友人と目が合う。
いつもとは全く異なる表情、ひどく冷たい目をしている我(わたし)を見て、
彼は、なんと思うのだろうか。
私は、彼ほど器用で天賦の才を有する人を見たことが無い。
そして、彼ほど自我を殺すことに長けた人を、未だ見たことが無い。
同じ氏族の傍流の宗家嫡男として、これから彼に仕える者として、
彼に同情する。
嗚呼、その姿は、まるでかつての私を見ているよう。
2/20/2024, 11:13:12 AM