Morita

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「あんたさあ、欲とかないの」
「欲って?」
「あそこに行きたいとかこれをしたいとか、極上サーロインステーキを腹がはち切れるくらい食いたいとか」
「最後のはヒロカのだね」
「そ。そういうのないの? ユイは」
「うーん」

春の海は凪いでいて、心地よい波音が私たちの間の沈黙をくすぐる。

島の外れにあるこの海岸は学校から遠く、平日の夕方は大抵誰もいない。平らな防波堤に並んで腰掛けて、ヒロカと私と、こうして海を見ながら話すのがいつものことだった。

「ないなあ」
「ああー! 困る!」

ヒロカは大げさに頭を抱えて仰向けに倒れる。

「ネタ切れなんだわ。誕生日プレゼント。何年友達やってんだよ。ノートにハンカチにぬいぐるみに、去年はパフェ奢ったし。ほんとなんでも良いから、なんか欲しいもの言ってよ」
「ふふふ」
「そこ笑うとこ?」
「ヒロカが必死すぎるから」
「はー!? 誰のせいでこんなに追い詰められてると思ってんの!」

足をばたつかせる彼女がおかしくてまた笑ってしまう。

「ほんと、何にもいらないよ」

こうしてヒロカと話せる時間が何より好きだから。

【お題:欲望】

3/2/2026, 8:22:36 AM