有郷令子

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#誰かのためになるならば

そう思って生きてきた。
自分の何気ない小さな行動が、誰かのためになるならばと。
褒められることもなく、一日一日が過ぎていくだけ。

今日も汚れていたのでゴミ箱の周りを片づけようと重い腰をあげた。
入らなかったテストの解答用紙が丸まっている。

「12点」

誰もいない朝の教室に、自分の声がよく響いた。
キンと冷たい教室にガサガサと用紙の紙音が響く。

「それ、俺の」

振り返ると見たこともない険しい表情で、ガタガタと椅子をひき大股で座り込んでいた同じクラスの男子がいた。
名前なんて呼ぶこともない。
声をかけることもない。
私は何もなかったかのように自分の席に座った。

「勉強教えて」

うつむいて下を向く私の前に座り直した男子は、私の返事を待つこともなく教科書を広げた。
朝のたった数分の時間。
朝光が差し込むと少し暖かい。

「ありがとう」

男子はたった一言、お礼を言うとパタンと教科書をとじて去っていった。
また教室に静けさと冷たさが戻る。

「名前なんだっけ」

他人に興味がないので名前すら覚えてない。
初めて名前を知りたいと思い、捨てていたテストの解答用紙をのぞきみた。
名前はわからなかった。







7/26/2023, 11:58:53 AM