白眼野 りゅー

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 僕は想像する。君がその小さな足で雪原を歩いたら、どんな軌跡を描くだろうか。

 ――二つ並んだマグカップの、大きい方を手に取った。


【シュレディンガーの軌跡】


 例えばそんな愛らしい足跡の隊列の隣に、一回り大きな足跡がもう一列、並んでいたとする。人々は想像する。寄り添って歩く、仲睦まじい男女を。

 ――マグカップに牛乳を注いだ。

 足跡の大きさは全く違うのに、その歩幅は変わらない。人々は想像する。男から女に対する溢れんばかりの慈しみ、愛情を。

 ――マグカップを電子レンジにかけた。

 そうして雪解けと共に、二列の足跡は同じように消える。人々は想像する。足跡が消えても、決して消えない二人の愛が、今日もどこかで育まれていることを。

 ――マグカップの中の温まりきらなかった液体を、飲み干した。

 実際に、本当にその二つの足跡が同じタイミングで付けられたかどうかなんて、きっと誰も気にはしない。

 ――ざあ、と水を出して、さっきまで使っていたマグカップをスポンジで洗う。

 僕は想像する。雪原にまっすぐに、どこまでも伸びていく君の歩みの証を。僕は想像する。その軌跡を辿るように、雪原に同じように跡を付けていく、僕自身のことを。

 ――君が使っていたマグカップの隣に、一回り大きな自分のマグカップを置いた。

5/1/2025, 3:13:48 AM