「私と、踊りませんか」
落ち着かなさげに薄暗い教室の中をうろつきながら、そう声に出してみる。想像するのはもちろん、相手の顔。
「私と、踊りませんか」
文化祭のフォークダンスなんて、古臭くてつまらないと思っていた。そう、あの時は踊りたいと思える相手がいなかったから。
私がこの言葉を伝えることで、相手はどんな表情をするだろう。驚く?困る?それとも喜ぶ、だろうか。
「私と、踊りませんか。踊り……うーん?」
踊らないですか?いや、踊ろう?
なにがふさわしいだろうか。相手は部活の後輩。敬語というのもおかしい気がしてきた。
「おど……踊らない?私と」
ダメだ、言える気がしない。もうすぐ本番だというのに。もう既に相手が決まってしまっているかもしれない。だいたい、こんな急に申し出ても迷惑か。
「―――先輩!」
「えっ」
私一人だけがいた空き教室に飛び込んでくる存在。私が今まで恋い焦がれて止まなかった人。
肩で息をするその人が走って来たのは明らかで、その目ははっきりと私を捉えていた。
「私と、踊りませんか」
彼女のかわいい声が、私がずっと伝えたかった言葉を綴る。
「好きです、先輩。私と、踊ってください」
窓からさしこむキャンプファイヤーの灯りが彼女の桃色の頬を照らした。それが綺麗で、かわいくて、ずっと見ていたかったが、ゆらりと頭を下げた茶色の髪に隠れてしまう。
どこからか入り込んだ夕暮れの涼しげな風が、私達のスカートを揺らしていた。
10/4/2022, 11:25:16 AM