秋の終わりのこと。
近所の小学校の前の横断歩道で、
黄色い旗を振って子どもたちを渡らせていたおじいさんがいなくなった。
5日経ち、さすがにもう戻ってこないと察しはつくが
なにか諦められない。胸につかえるものがある。
私がここに越してきて五年、平日の朝と午後三時に必ずその老人を見かけた。
小柄な身体で青信号になるたびに道の真ん中に飛び出すように進み、旗を振って、
行ってらっしゃい、
はいおかえりと子どもたちに声をかける。
少し曲がった背と、どこかぎこちない動きと
しわがれた声の中に少しの偏屈さを感じながら、
その枯れ薄のようなおじいさんを私はただただ横目に通り過ぎてきた。
それが、いざいなくなってみたら、こんなに寂しいなんて。
枯れ薄なんて思ってごめんなさい。
雨の日も風の日もご苦労様でした。
そんな言葉も伝えられない。
名前も年齢もなにも知らない、枯れ薄のおじいさん。
別れと死は同じだなどと、私に思わせる威力を持っていたおじいさん。
昔、草むらの隅でススキをちぎる時にふと、その穂の元に深い赤があるのを知ってはっとしたことを思い出した。
私は今、横目で見たあの老人の残像に、その赤を見ている。
11/10/2022, 12:23:56 PM