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 ウチの両親は喧嘩が多い。母親が金切り声で何かを言い、父親が低い声で威圧する。暴力はないけど、声が怖くて仕方なかった。

 なぜ両親は結婚したんだろう。

 両親は当時で言う晩婚だった。三十歳を過ぎてから結婚して私が生まれた。両親の生きてきた時代からして、結婚を促されお互い嫌々結ばれたのだろうと考えていた。



「あ、おかえり」

 あれから随分大人になった私は、両親が結婚した年齢になっても独身で実家暮らしだ。仕事から帰ると家族みんなバラバラに過ごしている中、今日はリビングのテレビ前に集合していた。

「あ、ほら、軽井沢のこの店。懐かしいわ、まだあるのね」

 母はテレビの旅番組を観ながら声を上げた。そばには珍しく、父が寛いでいる。
 その状況が異様な光景に見えた。
 自分の部屋へ向かって手早く着替え、もう一度リビングに戻ると、母はソファに座り直していた。父は変わらずテレビ前で横になっている。二人ともテレビの旅番組に夢中なようで、ああだこうだ話し声が聞こえてくる。

「ねぇ、このお店。あの頃流行ってたわよね」
「ああ、行った」
「今もあるのね、今度行ってみようかしら」
「え、お前と行ったんじゃないのか?」
「は? 私アンタと行った覚えないわよ。どこの女と間違えてるわけ?」
「あれ? お前とだと思ってた」
「私は当時の彼氏と行ったわ。アンタとは行ってない」

 一触即発のような会話を笑って済ませる両親に、似た者夫婦という言葉が思い浮かんで消えた。二人とも嫌がりそうだ、その言葉。


『夫婦』

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 お題をスルーしてしまったとき

『どうすればいいの?』

11/22/2024, 10:22:44 AM