青波零也

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 僕の左目は契約の証。
 一握りの魔法の引き替えに、僕の片方の視界を大切なあなたに。
 そうして交換した左目は、その人が僕の前からいなくなってから光を映すこともなければ、魔法の気配もすっかりなくなってしまった。
 それでも僕にとっては命より大事なもので、いなくなってしまったその人の存在証明で、ただ、今はもうそれだけだと思っていた、けれど。
 そうではないのだ、と彼は言う。
「あんたのその目が、今もなお色づいているってことは――」
 まだ、僕の大切なひとは、本当の意味でいなくなったわけではない。魔法はまだここにある。魔法の使い手もまた然り。
 ここからどれだけ手を延ばしても届かない、遥か遠くのことであったとしても、それは「無い」ということを意味しない。
 その人はどこかにいるのだ。今も、この無数の世界のどこかに。
 彼はきっと正しくて、だから、僕は前を向くことに決めた。
 いくつもの世界を渡り、今の僕に与えられた「役割」を果たしながら、
 
 あの日の温もりを、追いかけている。


20250228 「あの日の温もり」

2/28/2025, 12:11:47 PM