久世宮 綴

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もうずっと昔。子供の頃の話。
大切な人と旅をした記憶は今でも鮮明に思い出せる。

私を助けてくれた時も、雪山で出会ったあなたを旅に誘った時も、路銀がない時も、あなたの正体に気付いていたことを話した時も、お互いの誕生日に送りあった物も、煙草の銘柄も、お酒を飲んだ時も、魔法を生み出した時も、本名を知りたがっていたあなたも、寝ぼけてあなたの服を着た日も、魔皇を討った時も、私の「おやすみ」が好きだと言ってくれたことも、あなたが指輪をくれた時も、あなたを殺した時も、あなたへの気持ちを知った時も。

あの度の中であなたがくれた言葉も意味も理由も優しさも嘘も悲しみも喜びも、その全てが今の私を形作っている。
いつか、なんて生温い言葉がないことは知っている。
ずっと、なんて幻想が続かないこともわかっている。
もう二度と会えなくとも、隣に立てなくとも、それでも、私は過ぎ去った日々が愛おしい。
どうしようもないほどに忘れることなどはなくて、一生涯たった50年の記憶を大切に大切に侵されないように、抱えて生きていく。

私の人生が有り余って埋まらなくて空白ばかりになってしまうのに、そのどこにもあなたはいないから。
だからどうか。
この世界が崩壊して、どこかの果てでなんでもなくなったあなたと出逢えたのなら。



お題「過ぎ去った日々」/2024.3.10

3/10/2024, 9:18:41 AM