作家志望の高校生

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「おにーいさん!」
ぴょこんと建物の影から顔を覗かせたのは、まだあどけなさの残る顔立ちをした高校生くらいの男の子。僕と初めて出会った時から、飽きもせずずっとここに通い続けている。
「うん、いらっしゃい。今日は何してたの?」
僕にとっての唯一の楽しみは、彼と話すこの時間だった。きっと学校帰りなのであろう夕方に立ち寄る彼と、他愛のない話をするひととき。僕は学校に通ったことがないから、そういう普通の日常の話は面白くてたまらない。大して面白くもない僕の話も楽しそうに聞いてくれる彼の存在は、眩しくてたまらなかった。見晴らしのいい、僕の住処の裏手側で話し込んでいるうちに、日が暮れてしまう。
「おや、もう日が落ちてきたねぇ。もう帰りなさい。」
僕がそう言うと、彼は不機嫌そうに唇を尖らせてぼやく。
「帰ったら課題しなきゃいけないし、もう俺ずっとここに居たい!」
ああ、困ったな。そんなことを言われると、本当に帰したくなくなってしまう。しかし、過去に気に入った子を帰さなかったら、「神隠しだ」と恐れられてしまった。だからそんな仄暗い感情を押し殺して、努めて優しく、困ったように微笑んだ。
「ダメだよ、ちゃんと帰らないと。親御さんも心配するよ?」
そう言われて、彼は渋々と鞄を持って出口へ向かう。そこに着くまでの道中で話をすれば、彼もすっかりご機嫌になったようだ。
「またね!」
そう言って無邪気に笑いながら、彼が鳥居をくぐって出ていく。僕はここから出られないけれど、明日の黄昏時、彼はきっとまた来てくれるから。
「……うん、またね。」
僕も穏やかに微笑んで、君を見送ることができるんだ。

テーマ:またね

8/6/2025, 10:22:27 AM