秋茜

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キンモクセイ

 白銀の透き通るような髪をなびかせながら、エルフの少女は茜差す秋の森の中で歌っていた。
 少女の歌声に応えるようにたおやかな風が泣き、木々が一斉にざわめき、色とりどりの花が踊り始める。
 まるで、自然その物が少女を祝福しているような――夢の中にいるような幻想的な光景だった。

 エルフの少女は歌い終わると静かに木の根に腰を下ろし、ポケットから何かを取り出した。
 それは、いつかの旅人がくれた―一輪の黄色い花があしらわれた小さなブローチだった。

 エルフの少女は、その旅人との会話を思い出す――。

 曰く、その旅人は――『とある遥か遠い異国の国』からこの森へ迷いこんだという。
 その旅人の居た国では、この国で言う“魔術“のような、“科学“という神秘があるらしく。
人々はその“科学“を使い文明を発展させ……何もかもが便利で安全な暮らしを送れるようになっている……のだとか。
 しかし、同時に手付かずの美しい自然も一部には残っており、四季も美しい国だという。
 そうして、様々な文化や食や人々が隔たりなく交わる、争いのない国なのだと言う。

 聞くほどに楽園のように思えるその国からきたはずの旅人は――何故だろうか。
 どこか疲れきった顔をしているようにも見えた。

 そうして、色々な話を聞くうちに少女は旅人と打ち解け、寄り添い会うように二人は笑い、歌い、朝まで話した。
 永く、しかしたった一夜の短い時の間の出来事だった。

 朝日が森に差し始めた頃、旅人はポケットから何かを取り出し、少女に手渡した。
 話に付き合ってくれたお礼、と言って、旅人が少女の両の手に握らせたそれは――小さなブローチだった。

 それは、見たことのない小さな黄色い花があしらわれた綺麗なブローチだった。
旅人は、この花言葉が……君にぴったりだなと思って。と、少し照れ臭そうに笑いながら言った。

――この花は?、と少女は問いかけるが。今度また会えたら教えるよ、とはぐらかされてしまい。
 旅人は、もう行かなくてはと重い腰を上げて歩き始めた。
しばらくすると、ふと立ち止まり、振り返らずに少女にこう言った。

――ありがとう。楽しかった。

 その一言を残して――その旅人とはそれっきり二度と会うことはなかった。

 エルフの少女は、今日もこの森で歌う。
 あの日、あの旅人と出会った場所で。
 あの日、あの旅人と歌った歌を口ずさめば――この知らない花の名前を教えると言った約束を思い出した彼が、また会いに来てくれる。
 そんな、気がして。

11/4/2025, 1:05:39 PM