"愛を注いで"
「ご馳走様でした、と」
自分の夕飯を済ませて食後の片付けをする。
「おぉ、今日も綺麗に食ったな」
「みゃ」
子猫のご飯皿を回収しにしゃがんで皿の中を見る。皿の中に入っていたはずのドライフードが一粒残らず綺麗に無くなっていた。
数日前獣医から「ドライフードを出していいよ」と言われたので、その日からドライフードを出している。
「みゃん」
獣医にOKを貰ったものの、ちゃんと噛めるか、そもそも口に合うかどうか不安だったが杞憂で、初めてそのままで出しても綺麗に完食してくれた。
手の平で子猫の頭を優しく撫でる。俺の手の平に頬を擦り付けて来た。
「……」
──名前、いい加減そろそろ決めないと……。
検診の時獣医に、子猫の飼い主になる事と名前がまだ思いつかない事も話していた。その時に「ゆっくりでいいよ」と言われたが、名前はとても大事なものだ。いつまでも名無しだなんて駄目だ。
だからなるべく早く決めなくては。
──けど、焦って決めるものじゃねぇよな……。獣医には「大体は身体的特徴で決める」って聞いたし、こいつの特徴を名前にするか。けど言うほど名前にできそうな身体的特徴は無い。それに、安直なのは避けたい……。
「そういや……」
獣医は「性格的特徴で決める人もいる」とも言っていたなと思い出す。
名前に繋げられそうな特徴が無いか、これまでの子猫の行動をできるだけ多く思い出していく。
「……あっ」
該当する特徴があった。
時折出す力強い一声。体の大きさと共にすくすく育っていく身体能力。
もう、これ以外思い浮かばない。
ゆっくりと口を開き、声帯を揺らす。
「……《ハナ》」
子猫の耳がピクリと動き、こちらを見上げる。もう一度、発する。
「《ハナ》」
すると今度は確かな眼で俺を見る。子猫の小さな目に、俺の姿が映る。お気に召してくれるか、緊張で耳の奥から鼓動が聞こえる。
「……みゃあ!」
「うおっ」
大きな一声を響かせ、驚いて思わず少し仰け反る。
お気に召したようだ。
「今日からお前は《ハナ》だ」
「みゃ」
そして再び、名を呼ぶ。今度はしっかりとした、揺るぎない声色で。
「《ハナ》」
「みゃ」
子猫──《ハナ》が返事に、短い鳴き声を上げる。
「これから改めてよろしくな、《ハナ》」
「みゃん」
《ハナ》の返事を聞くとご飯皿を回収して立ち上がり、自身の食器を共に持つ。
「じゃ、ちょっと出てくな。大人しく待ってろよ、《ハナ》」
「みゃん」
《ハナ》の鳴き声を背に聞く。首を動かし微笑んで見せると、食器を洗いに部屋を出た。
12/13/2023, 12:44:17 PM