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「それは、どういう意味で?」

小首を傾げて。上目遣いで。彼女の前髪がサラリと私のおでこに触れる。
頬があつい。体中が心臓になったみたいに、ドキドキ──を通り越してバクバクと脈打つ鼓動がうるさい。
あちこちに泳がせていた視線が、彼女の視線に絡めとられる。もう目をそらせない。
『好きじゃなければ友だちやってないでしょ』
『意味って?好きは好きだよ。大好きな友だち』
『好きっていうのは──』
深夜。誰も邪魔しにこない。ワンルームのアパートで、私は岐路に立っている。
いや、実際には座っていて、アルコールのせいでまわらない頭をフル回転させて必死に考えているところ。
自分の失言に乗っかった彼女の勢いに、このまま流されていいのか。
流された先は、私の望むところなのか。
「好きって、どういう意味の好き?」
長いまつげが瞬いて、焦げ茶色の瞳が揺れる。
ハッキリしない態度に焦れたみたいに、唇を尖らせないで。この距離でそれはやめて。順番をすっとばしてキスしてしまいそうになる。
「だから、その……わたしの、好きは──……友だちじゃない好き……」



岐路

6/8/2024, 11:41:16 AM