ライ麦粉

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 「大人になってもずっと遊ぼうね」。確かにそんな言葉を交わしたけどさ。

 

 陽気すぎる声がそこかしこから響いて雑音へと変わる。アルコールの臭いは、実は酒というより消毒用のそれだし、何なら料理のほうが美味そうな匂いを運んでくるのだ。学生の頃にぼんやり思った居酒屋のイメージは、なんかちょっとだけ現実より敷居が高かったらしい、なんて気づいたのは、最近のようで十年も前。足繫く通えばそんな目新しい発見もありはしない。

 はじめは予定を全員で合わせて。誰かの誕生日、行事の記念日。いつの間にか、ただ愚痴りたいときに、今から来れるやつ、なんて雑に呼びつけて。それでも大体来てくれる彼らを、やっぱりそれなりに好いていて。

 

「結婚したんだ」

 

 心の底からおめでとうと言えた。お前も早くしろよ、茶化されてもうるせえと笑えた。

 知ってるか? そのネタはこすられなくなったほうが辛いんだ。今も気のいい奴らのままで。電話一本で駆けつけてくれる。ありがたいよ、本当に。

 

 それでも、話の中心はいつも、子供のことだ。ふられすらしない話題でみんな盛り上がって、共感をぶちまける……いや、わからないんだって、だから。そうして今日も、ぬるいビールを端の席でちびちびすする。

 

 カラン、と隣にグラスを置かれる音がした。反射で会釈をすれば、その中では一番付き合いのない彼女。ああ、そうか、あなたもね。それでも同士のような苦笑いを浮かべて、二人苦い酒をあおるのだ。

 

【二人ぼっち】



 


3/21/2023, 1:39:40 PM