茜寧

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「ごめんね、泣いちゃって」

別れ話の途中、彼はそう言って笑った。

必死で気づかないフリをしていた私にとって、その言葉は鉛のように重く、心底どうでもよかった。

「もう会えないの?」

震える声で彼は言った。マンホールの蓋を開けてしまったかのような感情に私は困惑する。

どれだけ多く言葉を交わしても、どれだけ長く電話を繋いでも、通じないものはある。

「彼に会いにいく電車に乗る度、私はいつも心臓を突き刺されたかのような痛みを憶える」

彼に会ったら、どんな言葉をかけよう。
どうやって笑おう。

そこには、焦りと恐怖しかなかった。

「手を繋いだ。人生で初めて。」

右手に緊張が走る。手も心臓も、握りつぶされるような感覚を覚えた。

手を握りあっているのに、仕合わせではなかった。


私たちはもう、終わったのだ。
日が暮れ、冷たい風が胸を撫でる。

その日私は、3ヶ月ぶりにゆっくりと眠ることが出来た。

5/29/2023, 3:47:48 PM