「可愛い〜」
「本当だ、見てく?」
「うん」
カランコロン
綺麗な音を鳴らしながらドアが開いた。
その奥にカップルと思しき男女が楽しそうに入っていくのが見えた。
「ね、ここ入ってみない?」
そう言ったのは友達の片山 はる。
はるが見ているのはペットショップだった。
「ん」
「ありがとう」
はるは笑いながらドアを押した。
「こっち来て」
連れてこられたのは犬のコーナーだった。
「ここ?」
「そう、どう?」
「?」
「飼うんだったら蓮(れん)に飼ってもらいたいし」
「(買う?)それは良いけど…飼うのか」
「何で?折角来たんだし飼いたいじゃん」
俺が心配しているのは世話のことだ。
週一くらいではるの部屋に上がらせてもらっているが、正直とても汚い。
部屋の掃除もまともに出来ない人間が果たして生き物を飼えるのだろうか。
「そっか」
「で、選んで?」
「………あの犬は?」
「うん!良い!じゃ、飼ってね」
「ん、何万くらい?」
「お金は私が払うよ」
「は?」
「ん?」
「いや、お前が先に買えって言っただろ」
「え?」
「それに、金欠じゃ無かったのか?」
「流石に、飼ってもらううえにお金まで払ってもらうわけにはいかないでしょ」
「………なんて言った?俺が飼うって言ったのか?」
「うん、さっき聞いたじゃん。そしたら良いよって」
「は、………んん?……。ん゙〜………。ま、良いか……」
「うん!えっと……………ニ、二十万ちょっと……れ、連。やっぱり…」
「ん?」
「あ、や、なんでもないデス」
なんてやり取りをしてから実に一ヶ月。
はるは毎日俺の家に上がる。
その度に何かしらを持ってくるのだが。
その何かしらが犬用のご飯。
料理なんて全くしていなかったのに、テンを迎えいれる前の日から少しずつ料理の勉強を始めたという。
そして、驚くべき事にはるの部屋に上がると少しだけ、ほんの少しだけだが綺麗になっていた。
あ、テンと言うのははるが名付けた犬の名前。
何故かテンが俺よりはるに懐いているのが少し羨ましい。
少しずつ変わり始めたはる。
毎日金欠なはるだったが、最近は貯金箱にお金を貯めている。
その貯金箱は俺の家にあってはるが毎日百円を入れていく。
「ありがとう」
テンにお礼を言ってみたものの答えてくれる訳もなかった。
代わりに答えたのはそばにいたはる。
「えー、別に〜。テン」
「ワン」
「私、君に出逢って変われたと思う。ありがとう」
そっちか〜。
ー君と出逢ってー
5/6/2024, 7:49:52 AM