望月

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《ベルの音》

 どこからか、季節を感じさせるかわいらしい音楽が流れてきた。時折混じるベルの音が耳に響く。
 今年ももうそんな季節か。
 そう思う彼女は家路を急いでいた。
 正直、彼女にとってこの時期は、あまり好きでは無い。この駅前を流れる音楽も、ただなぜか虚しさを増すだけなのだ。
 彼女は足元を見ていたが、少し顔を上げるとそこかしこに仲睦まじい二人が寄り添いあっている。
 肩がぶつかる距離で、手を彷わせる両者の空気感の、なんと甘いことか。
 自然に組まれた恋人繋ぎも、なにもかも。
 彼女にとっては、無意味に虚しさを募らせる要因になり得るだけだ。
 暗い気持ちでは来年も物事が上手くいかなくなりそうだ、と思った彼女は足を止める。
 目的は、最近できた、駅前の雑貨屋だ。
 凍える手を動かし、赤と緑の装飾された置物を手に取り購入する。
 十分とかからずに再び家路についた彼女は、そのままの勢いでバスに乗った。

 それから少しして、バスからおり、マンションの一室に入る。
 彼女の部屋だろうその部屋には、不要なものがなかった。ほとんど白に統一されていて生活感もない。
 いつまでも暗い訳じゃないし、別に恋人がいなくたって何とも思わない。
 誰に宣言するでもなく心中でそう言って、彼女は買ったばかりの置物を玄関に置いた。
 
 彼女以外立ち入ることもない為飾る必要もなく、実用性のないもの。

 ほら、あたしだって人並みに浮かれてるのよ。こうして不要なものを衝動で買って置くくらい。

 架空の誰かに、恋人らに対抗するように。
 一人笑って、彼女は置物に手を伸ばす。

 つん、と触れた手から微かに、けれども確かに、金属音が響いた。


 

12/20/2023, 1:18:51 PM