『突然の君の訪問』2023.08.28
「あれま、おどろいた」
部屋の中に彼がいた。電気もつけず、暗がりのなかでソファの上で膝を抱えている。
電気をつけると、彼はまぶしそうに目を細めた。
「不法侵入だよ」
「ちゃんとカギで入りました」
「それは失礼」
合鍵を渡しているのだから、彼の突然の訪問に疑問は抱かない。
スーツから部屋着に着替えようとすると、背中に彼がへばりついてきた。
「着替えにくいなあ」
ジャケットも脱げないと文句を言うが、彼は答えない。
どうやら、元気がないようだ。だから、俺に甘えたくてしかたがないらしい。
へこんでいる子を慰めるすべはひとつしか知らないが、あいにく、こちらもそんな元気はない。
店の女の子に狼藉を働いた客を警察に突き出したり、女の子のメンタルケアをしたりと神経をすり減らしたのだ。
むしろ慰めてほしいのはこちらである。
包み隠さずにそのまま伝えると、彼はグズグズと泣き出す。
「しょうがないな」
ため息とともに吐き出す。
泣く彼をソファに座らせて、グッと抱きしめた。
8/28/2023, 1:00:43 PM