浅木

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 自分が疎ましいと思う人間はこの世に少ないらしい。
 死にたいと思うことは悪であり、自分を否定するのは哀れであり、己を消したいと思うことは愚かなことだと周りは言う。それはとても幸せなことで、だからこそ私に向けられる嘲笑が尚更身にこたえた。
 ネットの海を観れば、自分と同じ考えの人間は山ほどいるが、所詮はネットはネット、現実は現実。目の前で怒号の雨を降らせているこの現状に対しての特効薬にはならない。
 日常はいつも通りに回るものだ。それこそ、自分自身が死なない限り。
 意味が無い生き方しかできない人生だ。人の邪魔はしていない、かと言って役に立つことがあったかというと違う。自分が生きていなくともこの世界は回るし、今この世から消えてしまったとしても困る人間は誰一人としていないのだろう。それが嬉しくもあり、悲しくもある。後者に関しては完璧な矛盾だと理解しているのに、だ。
 あぁそうとも、生まれた以上愛されたい。私だって人間で、感情がある生き物で、誰かに大切にされたかった。大切にしてみたかった!
 けど実際はどうだ、いてもいなくても変わらない、仮に死んだら家族は正直困るだろう、自殺した子の家庭という重荷を背負わされるのだから。どっちつかずで足元がふらついて、右に左に揺られるままだ。
 いやだ。
 こんなのはいやだ。
 愛されたかった。愛してみたかった。みんなが当たり前に考えられて、当たり前に享受できるものを受けてみたかった。こんな人間でもこれくらいの欲は無限に沸く。
 それでも理性では分かっている。自分はそれに値しないと。そして愛することも恐らく出来ない性格だろう。いつか将来、致命な失敗をして、人から去られてしまうであろうことも。

 だからせめて。今のうちに自分を「無」にさせて下さい。誰も傷つけない、誰にも悲しまれない、見えない物にさせて下さい。
 認識されなければ、私を見る人がいなければ、居ないものとして扱われる。ということは、何にも影響を与えることが出来ない。正に理想の形だ。
 どうか、どうか。

「……いえ、ちゃんと聞いてました。はい。ごめんなさい、ママ」
「ごめんなさい」
「すみませんでした」

 今日も痛い。
 
 
2024/5/21
「透明」

5/21/2024, 2:32:09 PM