奈都

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お題「旅路の果てに」



長い長い魔王討伐の旅が終わろうとしていた。

なぜか勇者にお供として指名されてしまった私は、いま、焚き火を見ながら杖を拭いている。
魔王の城はもう目前だが、夜になってしまったし、ちょうどいい洞窟があったため、ここで休むことになったのだ。

このパーティには私以外に、勇者、戦士、賢者の3人がいる。
なんかすごい力を秘めているらしい剣で戦う勇者に、肉弾戦が得意な戦士、魔法で攻撃も防御も支援できる賢者。
ちょっと回復魔法が使えるだけの私がいる意味はあまりないような気がするが、それでも勇者は「おまえが必要なんだ」と明るく笑う。

パーティの雰囲気は驚くほど良い。なんなら村にいた時よりも断然居心地が良い。
勇者のお兄さんは明るくて優しく、戦士のお姉さんはガサツだけど頼もしく、賢者のおじいちゃんは疲れたからと言って小さくなって勇者のポケットに逃げることはあれどみんなの調子を気遣えるすごい人。

なんで私がいるんだろう。
そう思うのは、もしかしたらこの人たちへの裏切りなのかもしれない。
それでも、きっとこのパーティは3人のほうがしっくりきただろうなと思う。

今、私たちは代わりばんこで見張りをしている。
安全地帯っぽいとはいえ魔王の城のそばだ。バレれば袋叩きにされてもおかしくない。
さっきまで見張りをしてくれていた勇者はスヤスヤと寝ている。
勇者だけではない、戦士も賢者も眠っている。
ちゃんと睡眠を取れなかったのは私だけみたいだ。

流れるままにパーティに入れてもらってるだけで、勇気も度胸もない。
私はなんでここにいるのだろう。

ツヤツヤになった杖に、私の沈んだ顔が映っていた。




朝になり、私たちは魔王の城に行くべく歩みを進めた。
もう逃げることはできない。お昼には城に着くだろうという勇者の見立てに、私はげっそりしていた。

「いつも以上に浮かない顔をしておるのう」

賢者が私に話しかけた。私以外の3人は目をギラギラとしている。
そりゃ、念願の魔王討伐の時間は近いのだ。テンションが上がってるのはおかしくないだろう。

私が「まあ……」と笑うと、賢者はころころと笑う。

「そんなおぬしに朗報じゃ。おぬしの今日の運勢は絶好調! 運命の相手と出会えるかも!? だそうじゃ」

このおじいちゃんは毎日ひっそりとみんなの運勢を魔法で占っている。
それを自分の言葉で柔らかくして伝えてくれるのだが、なかなかに面白い言葉をチョイスしてくる。
私は思わず破顔した。

「魔王の城で誰と会うんです、さらなるヒーローでも来てくれるんですか?」
「そこまでは見えんかったが、わしの占いは百発百中だからの。楽しみにしとるがよい」
「はーい」



賢者は私の顔を見て満足したように足を早めた。次は戦士に占いの結果を伝えているらしい。
相変わらず、力の抜かし方が上手な人だ。
少し軽くなった足で、私はみんなの歩調に合わせて歩いて行った。


城内部に入ると、たくさんの魔物がいた。
魔物は見た目はかわいいものの、凶暴なものが多い。
私はひたすらみんなを回復していた。
だが、さすがというべきか、私の味方たちは圧倒的な力で道を阻むそれらをねじ伏せていく。
私が回復しているのはほんの少しのダメージばかりだった。

順調に進んでいき、ついに、荘厳な部屋の扉の前まで来た。
勇者は緊張した面持ちで、その扉を開く。

「待っていたぞ、勇者御一行」

丁寧なのか丁寧じゃないのかわからない口調で、私たちは歓迎された。
ついに来てしまった。絶望的な気分で顔を上げた私は固まった。

そこには魔王と思しき魔物がいた。
うさ耳のような2本のツノに、もふもふの紺色の毛皮。
ツンツンの牙に、ぎゅんっとつっている赤い目。

私は、一瞬にして、魔王に心を奪われた。

「こいつと遊ぶのもそろそろ飽きた頃だ。返してやろう」

魔王が獣のような美しい爪をひょいと動かすと、私たちの目の前に一人の男性が現れた。悔しそうな顔を浮かべ、倒れている。もしかすると、私たちより前に到着した勇者かもしれない。
勇者と同じくらい綺麗な顔をした彼は、

苦しげな声で私たちに言う。

「すまない……私にはもう戦うだけの力が残っていない……君たちで……どうか魔王を……」
「もう喋らなくていい! ここまで追い込んでくれてありがとう。トワさん、彼に回復を」



勇者から名前を呼ばれた私は、惚けた顔で魔法をかける。
賢者は「いい男に出会えたのう」とニヤニヤしている。

勇者は魔王に向き直る。

「彼の意思をついで、オレたちがおまえを倒す!」
「やってみるがいい、そいつと同じ目に遭わせてやろう」

魔王が妖しく笑う。もうダメだった。
私は勢いよく手を上げ、「魔王!」と叫んだ。
魔王どころか、その場にいた全員が私を振り返ったのがわかった。


「魔王! 私を、めとってください!」

空気が凍りつく。そんなのはお構いなしだ。
私は勇者たちを振り返り、頭を下げた。

「ごめんなさい、私は協力できなくなりました」
「な……」
「賢者さん、私の運命の人は魔王だったようです。私は魔王と共に行きます」

みんなポカンとしている。
賢者は「いや、ここにイケメンおるじゃろ」と狼狽えている。
そこに魔王の声が飛ぶ。

「勇者の一味を味方に加えるなぞ、こちらも困る。勇者、どうにかしろ」
「いや……どうにかしろと言われても……」

勇者はちらっと戦士と賢者を見る。
賢者は両手をあげて首を振る。
戦士は私の額に手を当てる。

「熱は……ないみたいだな……」
「元気です、今までにないくらいに元気です、私はきっと魔王に会うためにここまで来たんですから」
「……いかれちまったみたいだな」

戦士も諦めたようでため息をついた。
勇者も頭を抱える。

「魔王……彼女を頼みます……」
「それでも勇者か、諦めが早すぎる、まだそこの寝てるやつの方が粘り強かったぞ」
「今オレは失恋したんだ……とりあえずおまえは倒す……」
「我からこの小娘を奪い取る気概でも見せんか、それで勇者を名乗るな」

勇者は項垂れている。私をパーティに入れてたのは単に私を好いていただけだったようだ。
勇者は私を見た。

「オレが魔王を倒したら……戻ってきてくれるか?」
「いえ、その時は私も魔王と逝きます」
「おい、勇者、もっと粘れ」

魔王は狼狽えている。そんな顔も愛らしい。
私は魔王に駆け寄った。困った顔をしていたが、私はそれを無視した。

「さあ魔王、私が全力で支援するので、勇者たちを懲らしめてください! 死なない程度に!」
「なんなんだこの小娘は……」

運命の相手との初陣だ、格好いいところを見せなければ。
たとえかつての仲間でも容赦はしない。


私は昨日ツヤツヤにした杖をかざして、勇者たちと戦う覚悟を決めたのだった。


おわり。

1/31/2023, 12:56:07 PM