「もっと強くじゃよ。命をいただくんだ、なるべく苦しくないようにしてやれ。」
無理だよ。俺は。
イノシシだぞ?畑を荒らすからと言って、近所の人は嫌がってるけど生きてるんだぞ?
そのイノシシを俺のじいちゃんは狩るといういわゆる害獣駆除をしている。
『じいちゃん、俺には…無理だ。』
「…そうか。ちょっとあっちいってろ。」
しばらくすると大きなイノシシの鳴き声が聞こえ、それから少しすると何も聞こえなくなった。
『じい…ちゃん??』
「今、終わったぞ。」
『そっか。』
山をおりて狩ったイノシシを農家の人に見せたら手を叩いて喜ばれ、俺たちはたくさんの野菜を手に抱えることになった。
「ありがたいなぁ。こんなに沢山の野菜。」
『…うん。』
「どうした。」
『いや…別に…あ、あのさ、じいちゃん』
「なんだ。」
『イノシシってそんなに悪いことしてるのかな…。そ、そりゃ、さ?農家の人が一生懸命育てた野菜を漁るのはダメな事だけど…。山をけずって土地を開いて、イノシシの餌場を削ってるのは俺たちじゃん?イノシシだって生きるためにやってることなのに…。』
「…。」
俺、言っちゃいけないこと言ったかな…。
「わしも。」
『え?』
「わしもそう思っとる。」
『…??』
「ずっと昔からそう思っとる。でもな、お前だって知っとるだろ?お前の父ちゃんはイノシシに殺された。イノシシに襲われて殺された。そして、わしの親父もイノシシに襲われた。その時は今みたいに立派な家じゃなかったから、家ごと襲われた。」
『…そう…だったんだ…。』
「そしてこの村にある儀式も知ってるだろ?」
『うん。』
「家主が死んだらそのツレの妻も一緒に墓に行くと。」
『うん。…ッ』
「泣くな男だろ。」
『泣いてないし。目から…鼻水がッ出てるだけッだッ。』
「…フッ。わかっただろ?イノシシを俺が今も狩り続ける理由が。俺の親父とお袋はイノシシに殺された。お前の父ちゃんと母ちゃんも殺された。悔しかった。だから俺は俺みたいな人を作らないために狩っている。」
『…うん。ごめんじいちゃん。変な事聞いて。』
「変なわけあるか。自分の意見を素直に言えることはいいことだ。」
『じいちゃん、俺も、じいちゃんの仕事手伝う。次はちゃんと力を入れる。だから、だからさ、俺に、教えてくれ。この家が代々受け継いでる仕事を。』
「おうよ。任せろ。」
『ありがとう。』
〜次の日〜
「おい。もっと力を入れろ。ここだよ。ここ。ここをグッと。ここをこうグッとやるんだよ。もっとだ。グッとだグッと。」
『じいちゃん。俺、やっぱ無理かも。』
「男に二言はねぇぞ。やれ。ちゃんと。命をいただけ。」
『…。』
じいちゃんはスパルタだったみたいだ。
Byめめれん
10/7/2022, 10:34:43 AM