ここ数日晴天続きだというのに、彼が持っている傘はびしょ濡れだった。畳まれた傘の先から水滴が流れ落ち、玄関の乾いた三和土(たたき)に黒いしみを描く。
「いやあ、迷い込んじゃったみたいで」
「また行ったの? 近づくなって言ったじゃん」
「放っておけなくて」
ニャー、と鳴き声がした。
彼が左腕に抱えていた白い毛むくじゃらが動いた。
「とりあえず体拭きなよ、ずぶ濡れじゃん」
彼自身も、まるでどしゃ降りの中を駆けてきたように濡れていた。
彼の頭にタオルをかけてやると、彼は「ありがとう」と言って毛むくじゃらを包んだ。
「おのれを拭けって。あーもー」
結局もう一枚タオルを持ってきて彼にかけてやり、私が彼の頭を拭くことになる。
「今度は猫?」
「猫っぽいけど違うみたい。しっぽが6本あるし」
ほら、と彼が差し出したその毛むくじゃらは、確かにしっぽの数は多いし、しかも目が3つある。
「知らないよ、また上から注意されても。今度は減給じゃ済まないかも」
「見て見ぬふりはできないよ」
「心配してるんだよ。並行世界なんかウロウロしてたら、そのうち戻って来れなくなるよ」
「そしたら探しにきてよ」
「は? 巻き添えくらうの嫌なんだけど」
彼は私の方を見て微笑み、子供みたいなくしゃみをした。
【お題:ところにより雨】
3/25/2026, 8:35:14 AM