赤月夢羽

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じっと視線を感じる。
隣を見れば黒い艶やかな髪の毛を風に靡かせる彼女と視線が絡まれば嬉しそうに微笑むのだ。

その微笑みの美しさに耐えきれずに視線を黒板にずらして必死にノートに板書をするフリをすれば彼女もノートに視線を移したようでそっと安堵した。

彼女は真面目で勤勉、運動もそこそこ出来る。そして人当たりがよく、先生のみならず生徒からも信頼されている。トップの成績を維持しながら生徒会長もこなす、なんというかスペシャルな人だ。

そんな彼女に最近見つめられることが多い気がする。

俺は彼女に比べたら天と地、月とすっぽんみたいな差で勉強も運動もそこそこ人当たりに関しては対人が苦手なので友人も少ない。
だからあの微笑みにあの視線にどう対応していいかわからずにそっと視線を避けてしまうのだ。

視線を感じるようになってから数週間経ったある日、席が隣同士の俺たちは日直当番が回ってきた。
早起きして学校へ行けばもう既に彼女は来ていて、

「おはよう」

そう挨拶をすれば丁寧な言葉に変わり挨拶を返ってきた。

「おはようございます」

その後今日の当番の内容とやることの振り分けをテキパキと話してくれる彼女。それを前の席を借りて後ろを向き聞くことにして座って彼女を見る。

初めて彼女の瞳を覗いた気がする。それは黒い日本人らしい瞳だがその黒い中になぜか惹き込まれてじっと見つめてしまい、綺麗だなと思えば彼女は顔を隠して机に顔を埋めてしまった。

「え、どうした?体調悪い?」

大丈夫です、と言う彼女の耳が赤くなっていてもしかしてさっき思ったことを言葉にしてしまったことに気づいた。慌てて謝ろうとすれば、違うんですと彼女は続けた。

「いつも一方的に見てるだけだったので、見つめられるというシチュエーションに慣れてなくて」

その言葉を脳内で理解すれば、俺は彼女と同じように体温が上がり顔が火照る。
その様子をたまたま見た朝練組終わり組のクラスメイトは早くくっつけばいいのに、と呟いていた事など俺は何も知らない。

お題【見つめられると】

3/29/2023, 12:10:50 AM