ガルシア

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 後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。取り返しのつかないことは、どう取り返そうとしても手の内に戻ってくることは無い。人生を歩めば自然とわかってくる事実でああるが、それでも尚取り返したいと願ってしまうのは人間の愚かさだろうか。
 白い手をとる。酷く冷たい。しなやかな体を抱き寄せる。あんなに滑らかに激しく動いていたはずなのに、俺の体になだれかかってくることすらない。それが、俺に体重を預けてくれさえしないことが、心臓が嫌に早まるほど悔しかった。
 化粧で飾られた顔は相変わらず美しい。整えられた艶やかな口紅を乱すように唇で触れるが、彼女は俺を抱き締めることも突き飛ばすこともしなかった。この唇に触れたかったはずなのに、なぜこんなにも心に虚空が広がるような心地がするのだろう。
 彼女が欲しかった。笑いかけて欲しかった。あの視線を向けて欲しかった。柔らかく抱擁して欲しかった。なのに何だ、このザマは。笑うことも輝く瞳を向けることも腕を動かすことすらしてくれないじゃないか。どこで道を間違えたのだ、俺は。
 ただ愛が、欲しかっただけなのに。


『後悔』

5/15/2023, 11:31:39 AM