月下の胡蝶

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お題《この道の先に》


微睡む先にある世界が。


どうか、貴女の望む先でありますように。





「……それどうするんですか」


初夏の午後のこと。

山のような雑務を片付け、キッチンに出向いた先でふわりと少女が笑う。


「月雨さんおはようございます! あの食べますか?」


なんだか会話が噛み合ってない気がするのだが、少女はまったく気にした風もない。――おそらく。クッキーらしきものを焼いていて、作りすぎてしまったのだろう。


クッキーらしきものと表現したのは、クッキーと言い切るには少々無理があるっていう、個人の見解ってだけであるが。



「――いただきますよ。それよりソレ片付けてくださいよ?」

「はい! 好きなだけ食べてくださいね」


やれやれと思いながら、自ら調合した茶葉でお茶を淹れる。香り立つ湯気、窓から差し込むやわらかい光、少女の歌――月雨はクッキーらしきものを口に入れ、思わず笑みがこぼれてしまう。


自然にこぼれてしまうのだ、あまりにも幸せで。


皿洗いをしていたはずの少女は、たまたまその瞬間を見たらしくなぜか頬まで染めている。



「月雨さんのそんな顔、はじめてみました……」

「忘れてください」

「いやです。忘れません」

「じゃあ――」


椅子から立ち上がり、貴女の傍までいき――すっと顔を近づける。吐息がかかるほど近く。



「貴女の笑顔と交換です。満足するまで、その色彩を焼きつけさせてください」




――可愛いくて、憎い貴女。



それでも溺れてしまった方が負け。



7/3/2022, 11:57:12 AM