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昨日、記憶の限り初めてひなあられを食べた。想像よりもずっと柔らかな甘さがあって無意識のうちに口に運び続けていた。天の川の星たちもお菓子になればこんな味がするんだろうなとふと思った。
口に入れる度に雪みたいにすぐとけるひなあられは、その色味もあって神様のオヤツみたいだった。

…星を食べた神様の、その食べカスかも、なんてね。地球に降る途中大気圏を通って、そこで小難しい字面の物質が小難しい化学反応を起こしてパステルカラーな緑、黄、ピンク、白に………

たわいもない妄想の果てに気付いた。明日(今日)はひな祭りじゃないか、と。あちらこちらで、お内裏様とお雛様、優雅な三人官女に愉快な五人囃子、時たま赤い顔した老大臣の方々をお見かけしていたのに……なぜかすっかりそんな気はしなかった。
それと、ひなあられは去年だか一昨年だか、とにかくいつかの日に食していたなあと。全然初めてなんかじゃなかった。ついつい話を盛ってしまった限りである。

それにしても静かで穏やかで、そしてなんて優しい祭日なんだろうなあ。ハロウィンを経て節分までの喧騒はどこへやら。
ついウッカリと、その優しさに甘えて、優しいものたちとすれ違ってしまう所だった。ごめんねえ、雛人形の面々よ。
少々の反省、些細な感謝、ちょっぴりの切なさを込めてひなあられをまたまた頬張る。
うん、おいしい。ふんわりとした小さく甘い星々は、春の訪問を告げながら机上でまたたく。
新しい時の始まりに、まるで新しい世界を待ちわびるかの様に胸が踊る。

あーあ、これで花粉さえなければ、本当にいい日なのに。まったく、困るよキミ。

3/3/2024, 2:34:35 PM