かたいなか

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「尾壺根係長の過去?」
そんなもの聞いてどうする。カップから唇を離した先輩は、「素っ頓狂」がピッタリ当てはまる顔だった。
「いや、新人時代、どんなだったんだろって」
尾壺根係長。ネット検索で「おつぼね とは」と検索すれば出てくるであろう性質を、全部鍋にブチ込んで12時間以上煮詰めて、新人いびりを隠し味に仕込んだような、名字まんまのオツボネさま。
「あそこに異動になった新人は1年経たずに全員やめる」のギネシー記録保持者。
今日も今年異動してきた新人ちゃんの、背後に突っ立ち監視して、ミスした瞬間ネチネチ心を刺していた。

なんでこんなヤツばっかり生き残るんだろ(不条理)

「オツボネ係長の、イジメ癖のことか」
大きなため息ひとつ吐いて、新人ちゃんへの同情ともとれる額のシワと一緒に、先輩が淡々と話す。
「ただ脳の発達過程の結果として、前頭葉が変容して、頭のブレーキが効きづらくなってるだけ……と言いたいが、彼女は昔から既にアレだったからな……」
私もよくグチグチ難癖つけられたものだ。
そう結んでまた先輩は、コーヒーを口に含む。

なんであんなヤツばっかり生き残るんだろ(理不尽)

「ん?」
「どうした」
「そういや先輩の新人時代ってどんなだったの」
「は?」
ぴちゃり。顔を上げた拍子に、コーヒーのしずくが一滴落ちて、先輩が即座にティッシュをつかむ。
「何故私の話に飛ぶんだ」
テーブルを拭きながら聞き返す先輩の顔は、やっぱり「素っ頓狂」がピッタリだった。
「いや先輩にも新人時代あったんだよなって」
「過ぎたことだ。忘れた」
「初恋の人にズタズタ云々」
「だから。いい加減そこから離れてくれ。なくぞ」
「先輩多分泣かないもん」

「わん」

「そっち、 そっち……」
「おい、なんだ。どうした」
「ツボ、ギャップ……わんわん……」
「ん、んん?」

3/9/2023, 4:18:50 PM