七変化

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彼女の好奇心にはほとほと呆れたものである。

ここ数日、心惹かれるようなことが何も無いと、家にこもって愚痴っていたと思ったら、突然行動し始めた。それ自体はまぁ、いつもの事と言えばいつもの事だった。誤算だったのは、その行動のきっかけ、つまり、彼女の興味の矛先がこの場所だったことだ。

「だから気をつけてって言ったのに…」
そう呟いて顔を上に向ける。そして、ここからでは見えない遠くの空へと思いを馳せる。

彼女に振り回されるのは日常面だけではなく、彼女の行動に付き合っているときもまたそうであった。そして、彼女が満足のいく結果を得られたあとは決まって空を見上げ、達成感の余韻に浸ったものだ。彼女はいつだってまだ見ぬ世界に溢れ返るほどある未知へと思いを馳せていたが、私は当たり前のように彼女が隣にいる日々を思い描いていた。

心のどこかでは、いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていた。彼女の好奇心が彼女自身の身を滅ぼすだろうことは想像に難くなかったし、私が彼女に隠していたこの場所のことを知ってしまうのは時間の問題だというのもわかっていた。
…わかっていたのに、その日が来ないことを願っていた。
その願いも、思い描いた未来も、もう二度と訪れないものになってしまったけれども。

私の足元には彼女が横たわっている。この場所は元々、人が滅多に訪れないし、ここに来るまでの道だって人通りは殆ど無いから、何があったかを知る人はきっといないだろう。ただ、この状況が客観的にどう見えるかはわかっている。
だというのに、私はこの場から動くことが出来ずにいる。かつて、星や雲を掴もうとするのと同じように、彼女と一緒に生きる未来を求めて遠くの空へ手を伸ばしたあの日のように、この廃墟の一室で、見えない空を見上げている。



この頬を流れる雫とともに溢れている感情は一体何なのか。

4/13/2023, 9:54:59 AM