駒月

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 空は曇天。晴れ間のない日が続いている。あの大厄災の日からずっと。
 今にも降り出しそうだと見上げては溜め息を吐いた。
 今日も夫は帰ってこない。当然だ、先日戦死公報を受け取って安置所までお別れに行ってきたのだから。
 遺体があるだけまだ増しなのかもしれない。鬼に食われて遺品すら残っていない人もいた。
 だけど他と比べても何をしても変わらない……私の日常は、幸せは消えてしまった。

『愛してるよ』

 結婚する前から毎日言ってくれていたなと思い出す。馬鹿みたいに飽きもせず私に構って、幸せそうに笑う夫。
 ずっと一緒に居たかった。今更こんなことを願うなんて。
 
「また泣いてるのか──母さん」

 息子だった。夫とは違うところで戦っていた息子は、負傷はしたが帰ってきた。
 夫の面影のある顔で、視線を合わせてくる。
 ──ああ、私たちの宝。

「私たちは、ずっと傍にいるから」
「一人じゃないよ、お母さん」

 嫁いだ娘二人も来ていた。
 四人で身を寄せ合い肩を抱いて泣いた。
 今はまだ立ち直れない、前なんて向いて歩けない。それ程に夫の、子供たちにとって父の存在は大きいものだった。

 いつかまた顔を上げて笑うから、愛しいあなた。
 今はもう少しだけ、物憂げな空の下で雨催いに悼ませてください。



【物憂げな空】

2/25/2024, 11:18:07 PM