いぐあな

Open App

300字小説

思い出のお裾分け

 小学校の頃、秋の遠足で近くの山に登った。中腹にあるアスレチック広場で遊んでいると広場のクヌギの木が雨のように褐色の落ち葉を降らせてきた。
『小鳥が鳴いてる!』
『カブトムシが蜜を舐めている!』
 落ち葉を拾った友達が次々とそんな光景が浮かんで見えると声を上げる。
 僕らは夢中で葉を集め出した。

 その冬、クヌギの木は倒木したらしい。幹の中が空洞になっていたという。
 あの落ち葉は死期を悟ったクヌギが自分のたくさんの想い出を乗せて、散りばめたものだったのだろうか。
 あの時の押し葉で作った栞を手に取る。
 春風に小鳥の声。木漏れ日に蝉の声。秋風に枝を渡るリス。木枯らしに舞う雪。
 今も、そんな景色が浮かんで見える……気がした。

お題「たくさんの想い出」

11/18/2023, 11:19:15 AM