花とコトリ

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「風を感じて」

午後の微風が、雨上がりの庭先の木々を震わせていた。私は縁側で、よく冷えたスイカを一切れ手に、ぼんやりと木漏れ日を眺めている。隣では、今年で七歳になる愛犬のクロが、鼻先を風に向けてじっとしている。
「クロも、風の匂いを感じているのか」と声をかけると、彼はわずかにしっぽを振り、こちらを見上げた。
スイカの赤い果肉を口に運ぶ。ひんやりとした甘みが、暑さを追い払うように喉を通り抜けた。その間にも、クロは目を細め、風の中の何かを探るようにしている。
私はふと、昔、父と食べたスイカのことを思い出した。父もまた、風を感じながら、「夏はこうして過ごすものだ」と微笑んでいた。
クロが私の手元に顔を寄せてきた。「これはだめだよ」と言いながらも、その素直な瞳に心を和ませる。私は、小さなスイカの欠片を指先で差し出し、そっとクロに分けてやった。
風は、過ぎ去った日々と今を、静かにつないでいるようだった。

8/9/2025, 11:15:57 PM