優しいメロディが、頭の中をリフレインしていた。
口ずさむ。
記憶の中のそれらが、とても眩しい。
煤と瓦礫を蹴飛ばす。
灰色の世界にぐんと足を踏み出す。
あなたに会いに行くのだ。
あなたにこの歌を聴かせたいのだ。
口ずさんだ歌声が、きらきらと煌めきながら、澱んだ空気の中を泳いでいく。
砂埃の中では、あなたに教わったこのメロディはより一層、鮮やかで美しかった。
昔は、この辺りは自然が輝いて、のどかなところだった。
それを変えたのはあなただった。
ある日、遠くから侵略者たちがやってきた。
この町の守護者は、それを退けることに躍起になった。
守護者は、自由を制限して、警備を強化して、町を近代化して、侵略者から土地を、人を守ろうとした。
町はとても強くなったけど、そのために失われた幸せも暮らしも、決して少なくなかった。
そして、ある日。
この町はとうとう戦場となって、廃墟になった。
この町はあなたとわたしの故郷で、あなたとわたしが出会って一緒に育ってきた町で、あなたとわたしの生涯の職場で、あなたとわたしはどんなことがあっても、ここで最期まで居るつもりだった。
あなたは守護者の元で、町の人たちを攻撃や侵略から守る仕事。
わたしは守護者の元で、町の人たちの権利や自由を守る仕事。
侵略者たちがやってきて、侵略に抗うための政策が始まって。
あなたとわたしの立場は対立した。
あなたもわたしも、誇りと信念を賭して仕事をしていたから、妥協なんて出来なかった。
それで良かった。むしろそうでなくてはいけなかった。
だから、わたしたちは別々になった。
わたしはレジスタンスに。あなたは正規軍に。
わたしは検閲や監視や厳しくなる取り締まりに反対し、あなたはスパイや混乱した市民が強敵にならないように取り締まる。
あなたとわたしは別々に、この荒れた町の中で信念を貫くことにした。
あなたとわたしは自分の正義や信念を、貫いて、貫いて、貫いて、ようやく生き抜いた。
町はボロボロになっていた。
わたしたちが守りたかったものは、瓦礫と灰に埋もれた。
それでもわたしたちは生き残った。
そして、あなたとわたしが、会わない理由も無くなった。
だからわたしは、あなたに会いに行きたかった。
あなたに、あなたが教えてくれたこの歌を聴かせたかった。
あなたとわたし、また二人で一緒に生きていきたかった。
あなたの教えてくれた歌を口ずさむ。
灰の砂埃がサッと舞う。
わたしはメロディに合わせて、足を進める。
あなたとわたし。二人になるために。
11/7/2024, 2:10:05 PM