マッチングした近所住まいの彼――藤堂との二回目のデートは、金曜の夜に決行した。
待ち合わせの改札前に着いて辺りを見回す。人の顔を覚えられない彩子でも、彼の姿はすぐに見つけられた。スーツを纏った彼は、初デートよりも大人びて見えた。
彩子が提案した職場近辺の洒落たカフェで、閉店まで話し込んだ。
小中学校の話から何となく恋バナの流れになると、過去の恋愛遍歴やアプリの進捗状況など、一般にタブーとされる話題にまで片足を突っ込んでいた。
藤堂は赤裸々に語った。
彩子を含む五、六人ほどの相手と同時進行でメッセージをやり取りしていたこと。彩子へのいいねは無料のばら撒きでしかなく、デートに誘ったのもダメ元だったこと。
「こんなこと言うと失礼ですが、布川さんより前に会った方はいずれも綺麗だったんですけど、自分の中で相手のことを整理できてなくて同じ話題振っちゃったりとか、地雷踏んじゃったんですよ」
彼は苦笑いした。
「美人でも残ってるってことは、それくらい心が狭いってことなんじゃないですか。私も人の話をあまり覚えてないので、地雷踏みがちです」
そう返しながら、彩子はじわじわと自分の内側が黒く濁って行くのを感じた。
お前は美人じゃないとも取れる発言も少し応えたが、それ以上に気になったのは呼び名だった。
初デートからメールでのやり取りの間は下の名前だったのに、今日は苗字で呼ばれた。
藤堂は彩子の家の前まで一緒についてきたが、上がろうとすることはなかった。お礼メッセージがその日のうちに来て、次の予定もすぐに決まった。彼の恩師が経営する静かなカフェ。アプリの時から話に上がっていた所だ。二週間後の日曜日、自宅の最寄り駅で午後一時に待ち合わせて向かうことになった。
とても誠実で正直な人だ。今後も関係を続けようとする意志は感じる。しかし、数多のキープの中から、彼が自分だけに狙いを定めてくれるまで、どのくらい時間がかかるのだろう。
彩子は十分すぎるほど彼にアピールをしてしまっていた。あとは大人しく待つか、揺さぶりをかけるしか選択肢はない。
彼が自分以外の相手から振られてしまいますように。そんな最低な願いを、彩子は胸の中にしまった。
【秘密の箱】彩子3
10/25/2025, 5:53:55 AM