香草

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「影絵」

俺は一世一代のミッションに直面している。
目の前には今にも泣き出しそうな3歳のガキんちょ。そして周囲にはへべれけになって全く当てにならない大人たち。テレビを占領している中坊たち。
「教育学部なんでしょ?相手してやってよ。私料理作んないといけないんだから」とクソ姉貴が押し付けてきた甥っ子のご機嫌を取らなければならない。
正月はのんびりと好きなゲームに没頭する予定だったのに、親族が集まるとすぐにこれだ。教育学部に通っているからといっていつも小さな子供の相手をさせられる。
おれは高校の先生を目指してるのであって保育士になりたいわけじゃねえよ!と言ってみるが似たようなもんでしょと大人たちに流される。似てねえよ。
大体自分の感情をコントロールできない小さな子供は苦手だ。何が気に食わなくて大泣きするか分からないからだ。

「えー、何したいですか…」
とりあえずお伺いを立ててみる。ガキんちょは眉間にしわを寄せてふにゃふにゃ言っている。
やばい…泣きそうだ。俺も。
とりあえず泣かせるとクソ姉貴から雷が落ちるので自分の部屋に移動させる。
大人たちのどんちゃん騒ぎから離れて静かになった。
が、これはこれで緊張する。
まるで好きな女の子と初めてデートした時みたいな…
ガキんちょは居心地悪そうに周囲を見回している。
あいにく3歳児が興味を持ちそうなものは何もない。
「すみません。殺風景な部屋で…面白くないですよね」
ガキんちょのそばで正座する。3歳児の遊びってなんぞ?
俺がこの歳の時は忙しい両親に代わって祖母がよく影絵で遊んでくれていた気がする。
「影絵って知ってます?」
俺は部屋の電気を消してベッドサイドのランプの灯りをつけた。
おしゃれのために買った間接照明を影絵に使う羽目になるとは。ガキんちょは暗くなったことに少し不安になったのか俺の膝の上にちょこんと座った。
カイロ並みの温かさとふわふわとした肉感にそぐわない軽さに衝撃を受ける。

「これが狐です」
まずは定番のものを。おれはランプのそばで狐の形を作った。
「きちゅね!しゅごいねえ〜!!」
ガキんちょは影を指さしながら、興奮したように叫んだ。
え、こんな簡単なので喜んでくれるの。ちょろくね?
俺は調子に乗って、次にイヌを作った。
わんわんだあ、と小さな手でぺちぺちと拍手する。
まあ、悪い気はしない。
「ネコさんは?」
俺はリクエストに答えてネコを作る。
ガキんちょもすっかり喜んで色々とリクエストしてくる。少し動物っぽく動かすとキャイキャイと膝の上で飛び跳ねる。
なんか…可愛いなこいつ。膝痛えけど。
「ペンギン!ペンギンやって!」
「ふくろう!」
「うしゃぎしゃん!」
「ゾウしゃん!」
矢継ぎ早にリクエストが来て俺の手も絡まりそうだ。
てかリクエストされる動物の難易度がだんだん上がっている気がする。
「てぃらのさうるす!どらごん!」
「いや流石に無理」

4/20/2025, 8:51:31 AM