ずぅっと真っ暗な闇を手探りで歩いていた。
右を見ても左を見ても後ろを見ても前を見てもとにかく闇、一面の闇。
B男は時々何かに躓いて転びそうになったり、ぶつかって尻餅をついたりして、どんどん傷は増えていく。
そうしながらでも、とにかくがむしゃらに前へ前へと歩くしかなかった。
しんどい時は立ち止まって休んでも良いという選択肢を、その時は知る由もない。
漸くどこかの大通りに出た。薄らぼんやり電灯がポツリポツリ立っている。
他にも同じように歩いている人達が見えた。
「おぉい」思いきって声を掛けてみる。
そこにいる数人がこちらに気付いてにこにこと手を振ってくれた。
嗚呼、やっと分かり合える人達に会えたのだ。
B男の心にぽっと明かりが灯る。
後ろを振り返ると、相変わらずぽっかりとした闇が口を開けて彼の帰りを待っていた。
―もうあの頃には決して戻らない
傷だらけの足で大きな一歩を踏み出した。
9/2/2024, 10:44:22 PM