「タイムマシン?」
「ああ、そうさ。
もしこの飴を舐めたら一度だけ、未来でも過去でも、好きな時に飛べるとしたらどこに行きたい?」
平和な昼下がり、涼しい大也のラボでお嬢とアイスを食べながらそんね他愛もない会話をする。
お嬢はアイスを咥えながらうーんと考える。
「そうね、先週お気に入りのマグカップを割ってしまった瞬間に戻りたいわ」
「なんだか意外だねえ、もっとこう……何年前のこの時に戻って誰かを助けたい、と言うかと思ったけれど」
「過去に戻って救いたい人なんて大勢いるわ。
その中から誰か一人なんて選べない。
それに今は幸せだから、このままでいいの」
私はまだお嬢の過去に何があったか詳しくは知らないが、お嬢の表情を見るに思い浮かべた「救いたい人」はどうやら二人や三人で済まないほどいるらしい。
「お嬢にそんなに想って貰える彼らはとても幸せ者だね。彼らもきっと今のお嬢を見れば安心するよ」
「……本当にそうならいいのだけれど。
ところで玄蕃はいつに戻りたいの?」
「うーん、この間お嬢を殴ってしまった時、かな」
「いつまでアレを引き摺ってるのよ……戦いに事故はつきものなんだから私はもう気にしてないわ」
お嬢はふふ、と笑いながら垂れそうなアイスを手を添えながらまたひと口かじる。
「あ」
「どうかしたのかい?」
「アイス、当たりだわ」
「おや、後で店に交換しに行こうか」
お嬢は袖を捲りながら嬉しそうに当たり、の文字をこちらに見せる。
確かに、今は彼女にタイムマシンは必要なさそうだ。
7/23/2024, 9:43:22 AM