「心の羅針盤」
夜も更けて、ふと窓を開けると、星が一つ、青白く瞬いていた。その瞬きは、どこかおずおずとしながらも、確かにこの夜空の一角を支配しているように見えた。夜風がわずかに頬を撫でていく。ひんやりとしたその感触に、私は思わず目を細めた。
人にはそれぞれ、見えぬ羅針盤が心の底に据えられているのではないか、とふと思う。進むべき道に迷ったとき、目の前の明かりに頼るだけでは足りない。むしろ、こうして夜風に吹かれ、遠い星の光に目を向けたとき、静かに何かが指し示されるのを感じるのだ。
若い頃は、羅針盤の針がどこを向いているのかもわからず、不安の中で手探りしていた。しかし幾たびか星空を見上げ、夜風に身を晒すうちに、自分の中の針がふと動く感触を知るようになった。
何が正しい選択なのか、誰が保証してくれるわけでもない。ただ、あの星の光が遠い昔と変わらず私の目に届くように、心の羅針盤もまた、私なりの答えを静かに指し示してくれる。夜の静けさの中で、私はそれにじっと耳を澄ますのだ。
8/7/2025, 3:35:48 PM