天気予報は晴れだった。見目の良い、青々とした笹の葉を選んで窓枠に差す。会えるだろうと胸踊らせ、お手製の短冊に願い事を書いては少ない葉っぱに吊り下げた。
夜。天気予報は真っ赤な嘘。期待していた夜空は嘘と同じくらいの厚い雲に覆われて見えそうになく、目をきらきらと輝かせることもない。湿った生ぬるい風は天気が荒れる予兆だった。天候が不安定なら船は様子を見るため進まず、港に着くはずもない。
彼に、会えない。天の川に橋がないのと同じ様に。
果てしない海を天の川に例え、小さな船を橋に見立てて。対岸で待つ私は────
「ただいま!」
湿気を吹き飛ばすカラリと明るい声が玄関に響いた。忙しない足音が近づいて
「空は見た?見てないならすぐに行こう!見ないと損だ」
興奮冷めやらぬ彼に挨拶も返せないま腕を掴まれ連れ出された。街の灯りから離れ、岬にたどり着く。じめじめした空気は変わらず、分厚い雲の中には雷雲まで混ざっている。
「変な天気だから何も見えないよ。降ってくる前に……」
「あ!」
彼が指を指す。彼の指先、1ヶ所だけ雲が切りとられたかのような、待ちわびていた沢山の星々がささやかに輝いた。握り直された手に力が入る。
「……空の2人は会えたのかな」
「あの隙を見逃すわけないさ。……会いたかったよ、俺の織姫」
眺める星空に似た、粉砂糖みたいな甘い声が波風とともに溶けていった。
7/7/2023, 10:16:37 PM