七風

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ずっと隣でお嬢様を見守ってきた
お嬢様がこの世に生まれてからずっと
お嬢様のそばでお嬢様のために仕えてきた

お稽古の発表会にはお忙しい奥様と旦那様の代わりに行って
お嬢様の姿をカメラに収めた
卒業式や入学式にも必ず行って
お嬢様の成長を一番近くで見てきた

学校であったことも、お友達のことも
…好きになった方のことも
お嬢様は全部私に話してくれた

私は同意した
どんなときもお嬢様の味方で居続けた
どんなときも……




私はお嬢様が好きだった
お嬢様を始めて見たその日から
私はお嬢様に惹かれていた
報われなくてもいい
ただお嬢様の傍に居れるのならば、それで…


ある日の夜、私はお嬢様の部屋に呼び出された
私が行くと、お嬢様はそこで荷造りをしていた
「私、結婚することにしたの」
お嬢様は私にそう告げた
「お父様やお母様が決めた婚約相手と結婚するなんて嫌」
「私は私の好きな人と結婚するの」
「そして、この家を出ていくの」
お嬢様は力強く言い放った

私は困惑した
でも、お嬢様の目を見て同意した
私はどんな時でもお嬢様の味方だから
お嬢様の味方でいると決めたから

「…そうなのですね、お嬢様の人生です。お嬢様が自分らしく生きられる道を生きてください」
「困った時はいつでも私にお申し付けください」
私は笑顔を作ってお嬢様に言った
お嬢様は笑顔になって

「そう言ってくれると思ったわ」
と言った

あぁ、もう終わってしまうのか
あなたの隣で見守ることはもう出来なくなってしまうのか

「では、私は旦那様と奥様が起きてこないか見張ってきますね」
泣きそうになってお嬢様から離れる口実を作る
立ち上がりお辞儀をして部屋から去ろうとした

「何言ってるの?あなたも準備をしなさい?」

私はお嬢様の言っている意味がわからず首を傾げた
お嬢様は恥ずかしそうに顔を赤らめながら
「私が好きで結婚したい人はあなた!」
そう言い放った

私は数秒固まって
ダムが壊れたかのように目から涙が流れた
「…私なんかで、いいのですか?」
泣きながら必死に言葉を紡ぐ
「あなたなんかじゃなくて、あなた“が”いいの!」
「ほら早く、準備してきて!今晩中にはここを出るわよ」
お嬢様に背中を押される

「あ、あと!お嬢様って呼ぶの禁止ね!敬語も!」
「は、はい!わかりました…あ、わかった」
「よろしい」
あなたは満足したように満面の笑みでウンウンと頷いた



私はこれからも、ずっと隣であなたを見守り続ける
あなたに寄り添い続ける
その笑顔を守り続ける
あなたを信じ味方で居続ける
あなたのことが…

「大好きです」


お題:『ずっと隣で』

3/13/2022, 11:40:52 AM