たろ

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IF歴史。どっかのフィクション世界線。
タイムトラベラーなモブが混ざってる。

《波にさらわれた手紙》


砂をザクザクと踏んで、波打ち際へ向かう。
白波と水平線に沈み込む夕日を見比べながら、軽い気持ちで拾った小枝で、砂の上にザリザリと書き付ける。
時々、勢い良く打ちつける波に落書きを攫われながら、波に足を洗われないように逃げては、また書き付けていく。

「…何をしている。」
のっそりと背後に立つ偉丈夫。
座り込んだまま振り返って見上げると、覗き込むように傾げた首に銀糸の髪が揺れる。
『落書きです。夜の内に、波に攫われて、失くなってます。』
書いても描いても泡沫に消えるのならば、それも良し。
「童還りか?」
子供っぽいと言いたいのだろうか?
『童心が擽られまして。』
クスクスと笑うと、喉を鳴らすだけのいつもの返事が落ちてくる。
「楽しんだか?…日が落ちる。戻るぞ。」
共をしてくれた小枝を手に、先を行く広い背中を追い掛けた。


白波が、砂浜の落書きを浚って行った。

8/3/2025, 9:58:29 AM