柔らかい雨。
柔らかい雨って、一体どんな雨のことなのだろう。
君に柔らかい雨って、どんな雨だと思う?と聞いたら、君はなんて答えるのだろう。
✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵✵「涼(りょう)君」
「うん?どうした〜?」
私は同棲をしている恋人の涼君とソファに並んで座り、映画を見ているときに聞いてみた。
「柔らかい雨って、どんな雨の事だと思う?」
「柔らかい雨?」
「うん」
涼君は、校閲の仕事をしている。涼君の部屋には色々な種類の辞書がいっぱい置いてある。言葉のプロに、存在しない言葉を聞いてみたかったのだ。
「柔らかい雨っていう言葉自体はないよね?」
「うん」
「……でも、柔らかい雨っていうくらいなんだから、きっと、雨自体は冷たいけれど何処か温かくて、静かに降ってるんだろうね。ま、あくまで想像だから、人並みくらいしか出来ないけれど」
私は、あまり想像力豊かな方ではないと思う。だから、恋人が校閲という仕事をしているのに私は読みながら想像する事に疲れてしまい、小説を読むことはないに等しい。
けれど、涼君の言葉からは端々に温かさが滲み出ていて、涼君の作る物語は、どんな物語なのだろうと思う。
「けど、以外にバイオレンスな物語だったりして……」
「えっ?何?」
「!ううん。何でもない!ありがとう!!」
私はそういうと、珈琲おかわり、といってソファーから立ち上がり台所へ行く。
何だか腑に落ちない、という顔をソファーから覗かせている涼君は、何だか可愛かった。
11/6/2023, 9:22:00 PM