雨の音が君を呼ぶ
雨が降っていた。
窓の外は灰色に染まり、街の喧騒さえも水音に溶けていた。
私は傘を持たずに歩いていた。濡れることに意味はない。ただ、君がいた場所へ向かうために、何かを背負いたかったのかもしれない。
君は、いつも雨の日に現れた。
図書室の隅、校庭のベンチ、駅のホーム。どこにいても、君は静かに微笑んでいた。
「雨、好きなんだね」と私が言ったとき、君は少しだけ首を傾げてこう答えた。
「雨は、全部を洗い流してくれるから。悲しみも、嘘も、僕の声も」
その言葉が、ずっと胸に残っている。
君がいなくなってから、雨の日が増えた気がする。
まるで空が、君の代わりに泣いているみたいに。
今日も、君の声を探して歩く。
濡れたアスファルトに、君の足音が残っている気がして。
そして、角を曲がった先。
そこに、傘もささずに立っている君がいた。
「……君?」
君は、変わらない笑顔で言った。
「雨が、君を連れてきてくれた」
私は、言葉を失ったまま、君の隣に立った。
雨が、二人の沈黙を優しく包んでいた。
お題♯雨と君
9/7/2025, 1:50:00 PM