『空模様』
空はいつも、違う姿を私たちに見せる。同じ空は、もう二度と見られない。その下で生きている私たちもまた、二度と同じ日を繰り返すことはできない。なんだか儚くて素敵だ。
「もう一度、あの日と同じ空を見せて」と頼んでも、空は聞いてはくれない。「だって、もう覚えてないんですもの」と言いたげに、あの日は筆で描いたような雲だったのに、今日は鱗のような雲を見せる。「違うのよ、そうじゃないの」と言ってみても、「覚えていないのよ」と態度で示してくるだけだ。少し寂しいけれど、それもまた、素敵だと思う。思い出の傍に、空模様がある。
空模様がどう変化しようと、私たちに為す術はない。ただ、空の気分に任せて、日向ぼっこをしたり、傘をさしたり、上を向いて口を開けてみたり。私たちの生活は、空の下にある。空があるから、私たちがいる。
空がなかったら、私たちがこんな豊かな気持ちを持つことを許されていただろうか。空模様を見て、今日は太陽の日差しが柔らかくていい天気だと、今日は綿あめみたいな雲が多いと、真っ黒な雲が雨をザーザー降らせていると、そう感じる一日に、私は意味があると思う。でもそれが、どんな意味なのかはわからない。ただ、何だかこう、「ああ、私いま、生きている!」って思わせてくれるような気がするから__それだけでも、意味があると言ってもいいだろうか。
私たちはよく、海の広さに感動を覚えるけれど、空の広さには驚かない。私は、それが勿体ないと思う。だって空はこんなに広いんだから。海なんかよりずっと、ずっと傍であなたを見ている。海はあなたに会いに来られないけど、空は毎日姿を変えて、「今日はこんな服を着てみたよ」と無邪気に笑うように、毎日あなたに会いに来る。あなたのことは、空がいつも見てくれている。だから私も、空を毎日見てみることに意味があると信じている。「今日も私を見守っていてね」と微笑んでみる毎日は、きっと楽しいだろう。そうだ、これが豊かな気持ちを持っている理由だ。空が私を包んでいくれている、そう感じられるこの感覚があるから、生きていると思えるのだ。人は優しさを、温かさを感じて生きていく。
ああ、どうか、嬉しい時も、苦しい時も、私の傍で笑っていておくれよ。空だけはきっと、私を見捨てたりはしないのだろう。どうか、どうか私を優しく包んでおくれ。
8/19/2024, 2:23:17 PM