10/1「たそがれ」
兄を探す旅に出て半年になる。
この村に立ち寄った兄らしき人物は、村を困らせていた魔物退治に出、それきり帰って来なかったのだという。
重い足を故郷に向けて歩み始めて半刻。日が沈みかけ、あたりは陰に落ちる。
向こうから歩いてくる旅人がいた。すれ違うその時に見えた顔は―――
「兄さん!?」
振り向いて腕を掴もうとしたが、そこには誰もいなかった。
母に聞いた話を思い出した。この時間帯を、誰そ彼、と呼ぶのだという。―――あるいは、逢魔が時、とも。
(所要時間:8分)
9/30「きっと明日も」
きっと明日もろくなことがない。
朝から散歩中の犬に吠えられた。昼は先方のミスなのに上司に怒られた。午後は靴下が破れ、夜は残業。家に帰ればつまらないことで妻と言い合いに。
「はぁ〜〜〜〜〜…」
妻が寝静まってから、布団の中で盛大なため息をつく。寝返りをうつと、娘がぱっちりと目を覚ましていた。
「ぱーぱ」
小さな手を、頭の方に伸ばしてくる。
「なで、なで!」
その小さな優しさと愛らしさに、みるみる気力が湧いた。
「ミルはいい子だな〜!!」
抱きしめる。顔のにやけが止まらない。きっと明日も、いいことがある。
(所要時間:7分)
10/2/2023, 9:14:42 AM