某ゲーム二次創作
飛べない翼、狩人にとってはただの〝肉〟である。この世の非情な現実だ━
塔の最上階、竜の子は項垂れていた。
《ボクハトベナイ…》
「大丈夫だ、君はまた飛べるようになる。」
傍らの青年が励ます。
竜の子は母竜と共に空を飛んでいた。
しかし刹那に沸き起こった積乱雲に巻き込まれ強風に煽られ墜落した時に翼が折れてしまった。
墜落した竜の子は散々母竜を呼んで鳴いていたが何故か来たのは竜語を解するこの青年ノエルだった。
当地は今は危ない状況というので別の空間に一時避難することになりノエルに連れられ竜の子は塔の最上階に来た。
こうして不安の中迎えを待って夜の風に吹かれている。
《ココニイタラ…ボクハタベラレル?》
「大丈夫、これから迎えが来るよ。」
ノエルは縮れた雲に爛々と街光に照らされているまばらな星空を見上げた。
竜の子が墜ちたこの地は━今、危険に満ち溢れていた。
「アルファ!ブラボー!チャーリー!標的はあの塔に逃げた!」
「デルタ了解!」
アサルトライフルを装備した人影は長い螺旋階段を素早く駆け上がっていく。
「すげーよ、この〝あんしスコープ〟って奴は暗闇でも遠くのものまで良く見える性能ガチだぜ!」
「モノクロ世界から解き放たれたってだけでもう十分よ!」
「この世界の〝肉〟を食べたらどうなるのか。最上層に熱源反応、近いぞ。」
「一番上ね!GOGOGO!」
上空の星空が歪に歪み始める闇夜に射し込まれる神々しい光と共に一体の霊獣麒麟が出現した。
麒麟は空間と重力を操る。
その力で全ての世界の行き場の無い子ども達を自らが作った世界で見守っている。
竜の子が狙われているというので急遽保護にやって来たのだった。
麒麟はその意で竜の子を地面から空中へふわり舞い上げる。
「行き場の無い子どもは私の世界へ、さあ行きましょう。」
《アリガトウ…》
「良かったな、後でお母さんに会えるように取り計らうから。」
「ちょっと待った〜!私達の獲物なんですけど!」
金髪の女が塔の下から直接〝飛んで〟きた。
〝肉〟を追う者達の一人でサイキック能力を使う。
女の前にノエルが立ち塞がる。
「やれやれ君たちは〝肉〟が関わると目の色を変えてこちらの話を聞きやしないな。」
「〝肉〟を食べたいって子がいるの、皆好きでしょ?」
「今回は無理な話だ、お取り引き願えないなら私も容赦しません。」
傍若無人な狩人の挑戦にノエルは膨大な闇の力の一端を開放する。
「う…流石に一対一じゃ…。」
「よっしゃー!」
「間に合った!」
「お待たせ!」
塔を階段から登ってきた3人が合流する。
「ワオ!グッドタイミング、あちらさんガチギレだよ〜!」
「いくよ令和最新装備!」
「とりまバズーカ撃っとくか?」
「援護は任せろ!」
一人対四人緊張の瞬間━
「こぉらあ〜!いけませんっ!!!」
一つ目の黄色い小柄なスライムが背後から物凄い勢いで走ってきた。
「せんせい!」
「やべ…!」
「うす!」
「どうするよ?」
「この度は生徒達がとんでもないことを…!」
「本当はこちらも私闘を禁じられていますので…。」
せんせいは小さな身体に大量の汗をかきながらノエルに謝る。
振り返りキッと四人に向けられた大きな瞳には呆れと悲しみと怒りが満ち溢れていた。
「キミたちっ!!この世界の〝肉〟は食べられないの!」
正座した四人を前にせんせいの怒涛の説教が始まる━
ヒトの性が起こした騒動はこうして決着した。
「本当にんげんって愚かね!それで?竜の子はママに会えたのかしら。」
ロックブーケは心底呆れはてた表情をしながら兄を見る。
「会えたよ、傷も癒えた頃だし今は同じ空を飛んでるだろう。」
ノエルは雲一つ無い晴天を見上げ同じ空に生きる竜の子を思いやる。
「飛べない翼」
11/12/2023, 5:31:24 AM