空から降る白い雨は、雪と呼ぶらしい。雪は、今日も降っている。昨日も一昨日も、わたしが覚えている限り毎日絶えず降り続いているそれは、きっと、明日も降っているだろう。
「ぼすん」と降り積もった雪の上に右足が沈む。足は脛の辺りまですっぽり沈んでしまった。つい昨日地面を固めたばかりなのに、明日にはまた固め直さないといけない。降り積もった雪をそのまま積もるままにしておくと、いつか外に出た時に体の重さで埋まってしまう。だから、ある程度降り積もったら鉄のローラーを引いて回って、地面を固めておくのだ。雪は重さをかければ硬く固まってくれるから、こうしておけば人間一人の体重で埋まることはない。雪は溶けない。積もるだけ。積もったら、積もったまま。だから、家もすぐ積もる雪に埋もれてしまう。私たちは仕方なく、高くなる地面の嵩に合わせて家の高さも高くするのだ。私たちは、塔に住んでいる。きっと、昔より。それこそ、雪が降り始める前よりずっとずっと高い場所を地面と呼んでいて、ずっとずっと高いところに住んでいる。
雪がいつ降り止むのか、私は知らない。知る術もない。
私は今日も、外に出る。雪の降る白い世界を、生きる。外には、塔を高くするための、鉄が落ちているから。落ちてくるから。塔を高くするため、この世界で埋もれずに生きるために、私は今日も歩く。
ぼすん、ぼすん。
たまに、夢を見る。私が見たこともない、寝物語で聞いた昔の世界。
昔の世界には、雪は降っていない。もっと低いところに住んでいる。海、というところも、ある。そこで私は、鉄を探すこと以外をする。お父さんとお母さんも、塔を高くするために朝から晩まで危ない作業をしたり、泣いて暮らしたりしない。白くない、色々な色がある、景色。
でも、それは、夢だ。いくら夢を見ても、雪は降る。お父さんとお母さんは手を傷だらけにしながら錆びた鉄を針金で結んだぐらぐらする塔を作る。私は、毎日この白い景色を、孤独に歩き続けて、あるか知れない鉄を探す。鉄が見つからなければ、お父さんは私を殴り、お母さんは泣くだろう。塔を高くできなければ、わたしたちは雪に埋もれて死ぬだけ。
ぼすん、ぼすん。
この世界は、寂しい。
ぼすん、ぼすん。
ぼすん、ぼすん。
だから、私は夢を見る。幸せな夢を。
1/13/2023, 5:02:44 PM