とうの

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初雪祭

僕の街では、初雪が降った次の日は必ず晴れて、虹がでる。これを狐の嫁入りのためだと考え、"きつね様"たちを祝福するという、初雪祭が、朝から夜まで開催される。稲荷神社から商店街まで、雪や氷を活かした美しい露店がずらっと並ぶのだ。小さいころから僕の冬の楽しみのひとつで、初雪が降るのを胸を躍らせて待っていた。そして、今年もその日がやってきた。
僕は幼なじみのユキと露店が並ぶ道を歩いている。彼女は「雪のお祭りなんて、私のためのお祭りみたいなものじゃない?最高!」と、例年のようにはしゃいでいた。
「ねえ、何でさっき一緒にかき氷買わなかったのよ、こんなに美味しいのに。勿体ないわ」
ユキは狐に似せてトッピングされた新雪のかき氷を見せてきた。けれど僕はこの街のみんなと違って、生まれつき冷たいものが苦手だ。
「うーん、寒いせいで不味そうに見えてたのが、寒いけど美味しそうって思うようにはなったんだけどね…」
だから僕は露店の食べ物より、氷の彫刻や氷細工に興味がある。氷の糸で織った緻密な掛け軸や、黒いキャンパスに描かれた霜の絵画、雪と氷のグロッケン……初雪祭は芸術で溢れている。一方、ユキの目的は真逆だ。
「あ、綿雪飴だ!買ってくる!」
なんて言ってまた駆け出して行ってしまった。自由奔放である。でも、彼女の喜んでいる顔を僕が一番近くで見れる点は、どこか優越感があって、悪くはない。そんなふうに思いながら、僕はまた、ユキを待つ。


12月16日『雪を待つ』

12/16/2022, 8:24:12 AM